次世代スポーツメディア・Overtimeへの出資と“Social+”

本ポストでは、電通ベンチャーズの出資先である米国Overtime Sports, Inc.(Overtime)の概要と出資の背景、また関連するSocial+という考え方をご紹介します。

Overtimeの概要

今年の4月に電通ベンチャーズから、Z世代を中心とした若年層ファン向けスポーツメディア/コミュニティを運営するOvertimeへ出資を行いました。

Overtimeは米国を中心に、主に高校スポーツに関する動画コンテンツを制作・配信している会社で、主要ソーシャルプラットフォームにおいて約5,000万人のフォロワー数を誇り、Z世代の大きな共感を獲得しています。熱狂的なスポーツファンコミュニティを土台とした広告/スポンサーシップ事業やグッズ販売事業に加え、新たな事業の柱としてトップレベルの高校生を対象にしたバスケットボールリーグの創設にも取り組んでいます。

Overtimeの魅力①:エンゲージメントフォーカス

Overtimeへの出資検討において私たちが注目したことの一つは、彼らが表面的なアテンションやコンバージョンの刈り取りではなく、深いエンゲージメント醸成やコミュニティ創出に注力していることでした。ユーザー接点を独占する大手プラットフォームの出現により、コンテンツの配信機能が制作機能から分離し、コンテンツの質に対するユーザーと制作側とのポジティブなフィードバックループ=互恵的な共創関係の維持が難しくなってきています。またその結果として、表面的な注意や関心の獲得のみを対象にするようなアテンション偏重のコンテンツ制作、またそれを前提としたビジネスモデル/エコシステムの拡大が加速してしまっている現状があります。もちろん、このような構造的な負を解決すべく日々様々なステークホルダーが努力をしているのですが、マーケティングにおけるROIの計算が比較的容易なアテンションに対して、その質の測定や効果検証の時間軸においてより複雑な分析が必要となるエンゲージメントの可視化はハードルが高く、業界全体として有効な対策が打てていないのが実態だと感じています。

そのような状況の中、特に新しい視聴習慣やコンテンツ消費ニーズを持つZ世代向けに、深いエンゲージメントや熱狂的なファンコミュニティをベースにした新たな価値創造及びビジネスモデルの構築を志向するOvertimeのビジョンに共感し、投資を決定しました。

彼らのコンテンツ制作はユニークで、Overtimeのコンセプトに共鳴するコミュニティとの共創を前提としたものになっています。具体的には、全世界約7,000人のZ世代クリエイターコミュニティが、Overtimeのカメラテクノロジーを使って高校スポーツやその舞台裏を録画/編集/共有するショートコンテンツ、またZ世代の視聴特性に合わせたリアリティショー等のフォーマットに沿った自社制作コンテンツを展開しています。Z世代の視点で、Z世代によって作られたコンテンツはとてもオーセンティックでソーシャル性が高く、それ自体で自律的にファンを拡大し、コンテンツを増やし、エンゲージメントを高めていくグロースのループを備えているといえます。

Overtime社の魅力②:アスリートファーストの新たなエコシステム

そして彼らが次のステップとして取り組んでいるのが、Overtime独自の高校生バスケットボールリーグ“Overtime Elite”の創設です。

他の多くの業界と同様、スポーツメディア市場においても新たなビジネスモデルの試行錯誤が続いています。コンテンツ視聴のオンラインシフトはもちろんですが、マーチャンダイジングやファンコミュニティ運営、直近ではブロックチェーンのテクノロジーを活用し、ハイライト映像のマーケットプレイスを展開するNBA Top Shot等、全く新しいモデルも登場しています。

このような試行錯誤が引き続き必要となる環境下において、Overtimeは価値創造の源泉であるコンテンツの制作者=アスリート、及びその主たる受益者であるエンドユーザーと直接的に接点を持つことが重要だと考えました。ここにはもちろん、根本の権利を押さえて事業の利益率を上げていくという狙いもあるかと思います。しかし私たちが重視したのは、いわゆる垂直統合により、様々なステークホルダーとのコンフリクトや取引コストを下げ、今後どのように進化/結実するか分からない新たなビジネスモデル/エコシステムを自社内でアジャイルに開発していくプロセスを実装できる、という側面です。彼らが今回多くのNBAプレイヤーを投資家として招き入れ、より俯瞰的にエコシステム全体のインセンティブをアラインさせようとしているのも、この観点から捉えることができます。

また、彼らがアスリートファーストを掲げていることも大きなポイントです。Overtimeは高校生アスリートの長期的な価値創造やキャリアサポートに徹底的に注力しており、ファン獲得やリスク対応等のコミュニケーション戦略の講義、将来的にアスリート以外の道を歩むことになった際にも役に立つ学業サポート等もしっかり提供していく方針です。

全盛期のみにフォーカスする焼畑的なアテンションアプローチではなく、良質なエンゲージメントの醸成を軸に、アスリートの生涯にわたる価値創造をサポートすること。そうすることによって、短期的な搾取ではなく、長期的な共創/共存のエコシステムを築いていくこと。大手プラットフォームに依存せず、個人クリエイターがコアなファンと直接結びついて長期的な価値創造/マネタイズを行なっていくCreator Economyという概念が注目されていますが、上記のようなOvertimeのアプローチはスポーツに限らず、今後あらゆるクリエイター関連ビジネスで主流になってくるものだと考えています。

Social+とは

なお、Overtimeには米国のVCであるAndreessen Horowitz(a16z)も投資家として参画しており、彼らはOvertimeをスポーツ領域における“Social+企業”だと規定しています。詳細はこちらのブログにあるので是非ご参照いただければと思いますが、私たちはSocial+の企業を「Go to Market(GTM)だけでなく、プロダクト体験、ビジネスモデル、カテゴリー(業界/領域)の全てにおいてソーシャル文脈が考慮されており、その結果自律的なグロースループを持つような企業のこと」だと理解しています。

GTMにおけるソーシャルは、いわゆるバイラルマーケティングのようなもので比較的イメージが沸きやすいでしょう。プロダクトにおけるソーシャルも、昨今浸透してきたProduct Led Growth(プロダクト自体を新規顧客獲得やカスタマーサクセス等のチャネルとする戦略)に隣接する考え方だと捉えれば理解しやすいかと思います。一方で、ビジネスモデルやカテゴリーにおいてソーシャル性をどう抽出/設計して組み入れるかという視点はまだ深堀りの余地がありそうです。またこれらGTM、プロダクト体験、ビジネスモデル、カテゴリーの全ての要素を有機的に組み合わせて事業をグロースさせるというアプローチには更なる進化の可能性があるし、例えば広告代理店のようなプレイヤーがこの“Social+デザイン”のケイパビリティを強化していくのは面白い動きなのではないでしょうか。

なお、このSocial+の概念は、これまで述べてきたアテンションからエンゲージメントへの重点シフトのみならず、大手プラットフォームに依存しない事業グロース、GDPR等を受けた1st party dataの有効活用、D2Cのような直接的/互恵的なブランドとユーザーの関係、ブロックチェーン等により実現されるPeer to Peerの価値共創/フェアな価値分配等々、各領域で同時多発的に起きている現象とも接続可能な、骨太なトレンドのひとつと捉えることも可能です。

電通ベンチャーズでは、今後もこのようなSocial+の概念を体現したスタートアップに積極的に投資を行い、その事業サポートを行うことで自らのケイパビリティも拡張してまいります。またメディアやマーケティング領域で生まれてきている本質的なトレンドをしっかり見極め、できる限り正しく咀嚼しながら投資や事業支援を行い、業界全体のより良い進化に少しでも貢献していくことができればと考えています。

笹本康太郎 Managing Partner @ Dentsu Ventures

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