CVCに期待される投資先事業支援/連携のあり方とは?

様々な要因で資本提供の価値が相対化されつつある昨今のスタートアップ投資の競争環境においては、資金以外の価値提供が重要になります。特にCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)にとっては、投資実行は価値創造のスタート地点に過ぎず、そこからいかに投資先と関係を深め、彼らに対する事業支援で実際に価値を生み出し、一方で自社にとっての長期的な事業アセットを蓄積していくかが腕の見せ所です。

本ポストでは、投資先の事業支援に関する電通ベンチャーズの考え方と具体的な提供ソリューションを紹介しつつ、広く他CVCの皆様にも取り組みの参考にしていただけるような一般的なインサイトの抽出にもトライします。

基本的な方針を明確にし、発信する

CVCの事業支援や連携の手法は定式化が難しく外からは実態が分かりにくいため、基本的な方針をできる限り明確にして発信することには意味があると考えています。それは投資検討時においてはスタートアップとCVCとのマッチング精度を上げ、投資後の連携推進においてはお互いの意思決定に係るコストを下げることにつながります。

例えば電通ベンチャーズでは、短期的なコスト削減や売上積み増しのニーズに応えることよりも、長期的視点での事業アセット構築への貢献を強く意識しています。スタートアップは極めて貴重な株式というリソースを拠出する形で、私たちはリスクマネーを供給する形で、互いにリスクを取る以上、目の前で損得計算が可能な短期視点の取引だけでなく、もう一歩踏み込んだ長期的な価値創造に結びつく事業支援や連携に注力したいと考えています。

もちろんその時に、起業家の優先順位やリソースの制約を考慮し、彼らの邪魔にならないよう最大限の注意を払うことは重要です。自分たちの方が事業や領域に関して理解が低いことを正しく認識し、筋の悪い支援/連携の押し付けは行わないこと。時には、はやる気持ちを抑えて取り組みを控え、良きタイミングを待つというオプションも、私たちの重要な戦略の一つです。

このような方針であるため、電通ベンチャーズでは投資時に事業支援/連携内容等を具体的に規定するサイドレターの締結を求めることは多くありません。もちろんお互いにwin-winになる文脈があり、投資先がそれを望むのであればサイドレターの締結も検討は可能です。しかし、私たちが主に投資対象とするのは今後非連続な成長/進化を期待されるステージのスタートアップであるため、彼らの将来的な戦略オプションを制限しないことを優先しています。私たちは、常に変化/進化していくスタートアップの事業ニーズに寄り添い、都度フレキシブルに事業支援/連携を進めていく方針です。

CVCならではの補完的な支援内容を見定め、進化させる

具体的な事業支援の内容に関しては、CVCとしての相対的な立ち位置を正しく認識し、投資先の支援に関わるVCなど他ステークホルダーとの役割分担や補完関係を意識することが重要だと考えています。

その補完関係を検討する際に、当然CVCの母体となる事業会社の事業アセットは依るべき土台となります。しかし一方で、事業会社の既存サービスやリソースをそのまま提供するだけでは、投資先の長期的な価値創造や非連続/指数関数的な成長を実現するには不十分であるケースも出てきます。よって(特に早いステージから投資検討を行う)CVCとしては、事業会社の既存事業アセットを基盤としつつも、それを個々の投資先との個別具体的かつ変化し続ける文脈の中で都度カスタマイズし、またそれをきっかけに事業会社側の事業アセット自体を拡張/進化させ続けることも意識しながら、事業支援を行っていくことが重要なポイントとなります。

電通ベンチャーズでは、電通グループの最新ソリューションや知見を有する社内組織等を理解しリソース連携のハブとなりうる人材と、スタートアップ投資実務の専門性を持った人材が一体となってファンド運用を行うことで、上記の実現に向けたCVCならではのケイパビリティ開発及び蓄積を進めています。CVCと事業会社におけるリソース連携/拡張の質の高いフィードバックループを構築し、電通ベンチャーズならではの事業支援アプローチを常に進化させながら、他ステークホルダーとの補完関係の中で投資先の長期的な価値創造に貢献していくこと。これはもちろん簡単ではなく道半ばではありますが、引き続きチャレンジを続けてまいります。

以下では、上記のような考え方に基づき私たちが実際に提供してきた事業支援ソリューションの一部を、なるべく分かりやすい参考事例として一覧にしました。これまで説明してきたように、それぞれのソリューションは都度カスタマイズするべきで今後も変化/進化し続けるものなのですが、現時点でのスナップショットとしてご参照いただけると幸いです。

スタートアップの課題 電通ベンチャーズ/電通が提供したこと
事業パートナー開発と
連携支援
海外サービスの日本展開に向けて、スポーツイベントの権利保有者やスポンサー等の事業パートナー開拓が必要だが、特殊な業界であるためアクセスが難しい。 IPホルダー、放送事業者、スポンサーの座組みを設計し、日本での事業ローンチをサポート。関係者間での協業を促進し、日本独自の機能開発も支援。
専門チームによる
プロダクトデザイン
プロダクトカテゴリー(AIロボット)に対する日本のユーザーの期待と実際の技術的/機能的クオリティにギャップがあり、対応が必要。 専門チームが、マーケットのインサイトに基づくプロダクトのキャラクター設計を実施。機能的な不足分をユーモアあふれる情緒的価値で補完するアプローチを提案
新規事業
アイディエーション
企業価値の向上に向け、レベニューの複線化及びビジネスモデルの進化に資するような新規ビジネスの立ち上げを検討したい。 電通クリエイターの発想プロセスを事業創造に活用するオリジナルプログラムにて事業アイデアを共創。アジャイルなプロセスで新規事業のプロトタイピングを支援。
共同セールス
プロセス構築
B2Bプロダクトの拡販をしたいが、経営資源の制約を考えると、現時点ではセールス拡張ではなくプロダクト開発/改善にリソースを集中したい。 大企業顧客への電通グループのリーチ力を活かし、ターゲット顧客の分析、アタックリストの作成、セールス資料開発、共同セールス等を実施。
事業拡張のための
リブランディング
中核事業のアセットを軸に事業を拡張し、またそれら事業間の有機的なつながりを社内外に伝達するようなリブランディングを行いたい。 事業間のアセット連携を意識した事業戦略策定、新規事業立ち上げ、リブランディングのCI・VI策定を、CMO的な役割の人材を派遣することで支援。
PRも兼ねた
市場検証/事業実証
自社プロダクトの日本における市場性や事業性をクイックかつコスト効率良く検証し、事業展開の可能性を探りたい。 第三者の事業パートナーと共に集客を行い、コストを抑えた形で事業性を検証。実プロダクトの投入でアーリーアダプターに対するPR効果も狙い、ROIの高い市場検証を実現。
包括的な
日本法人立ち上げ支援
日本マーケットへの親和性やパートナー戦略の実現性を検証した上で、日本支社を立ち上げ、ローカライズされたプロダクトの販売を行いたい。 日本法人設立に向けた採用支援、パートナー企業との事業提携サポート、初期顧客の獲得に向けた共同提案、プロダクトローカライズ支援等を実施。
クライアントPOCと
White Paper作成
ソリューションの効果を実際の顧客ユースケースを通して検証し、その実証結果を活用したセールスの加速化も狙いたい。 Dentsu International の領域専門チームと連携し、クライアントとのPOCを支援。その実証結果をWhite Paperの形で分かりやすく整理し、対外発信を実施。

事業パートナー開発と
連携支援
スタートアップの課題
海外サービスの日本展開に向けて、スポーツイベントの権利保有者や放送事業者等の事業パートナー開拓が必要だが、特殊な業界であるためアクセスが難しい。
電通ベンチャーズ/電通が提供したこと
IPホルダー、放送事業者、スポンサーの座組みを設計し、日本での事業ローンチをサポート。関係者間での協業を促進し、日本独自の機能開発も支援。
専門チームによる
プロダクトデザイン
スタートアップの課題
プロダクトカテゴリー(AIロボット)に対する日本のユーザーの期待と実際の技術的/機能的クオリティにギャップがあり、対応が必要。
電通ベンチャーズ/電通が提供したこと
専門チームが、マーケットのインサイトに基づきプロダクトのキャラクター設計を実施。機能的な不足分をユーモアあふれる情緒的価値で補完するアプローチを提案。
新規事業
アイディエーション
スタートアップの課題
企業価値の向上に向け、レベニューの複線化及びビジネスモデルの進化に資するような新規ビジネスの立ち上げを検討したい。
電通ベンチャーズ/電通が提供したこと
電通クリエイターの発想プロセスを事業創造に活用するオリジナルプログラムにて事業アイデアを共創。アジャイルなプロセスで新規事業のプロトタイピングを支援。
共同セールス
プロセス構築
スタートアップの課題
B2Bプロダクトの拡販をしたいが、経営資源の制約を考えると、現時点ではセールス拡張ではなくプロダクト開発/改善にリソースを集中したい。
電通ベンチャーズ/電通が提供したこと
大企業顧客への電通グループのリーチ力を活かし、ターゲット顧客の分析、アタックリスト作成、セールス資料開発、共同セールス等のプロセスを構築し、実施。
事業拡張のための
リブランディング
スタートアップの課題
中核事業のアセットを軸に事業を拡張し、またそれら事業間の有機的なつながりを社内外に伝達するようなリブランディングを行いたい。
電通ベンチャーズ/電通が提供したこと
事業間のアセット連携を意識した事業戦略策定、新規事業立ち上げ、リブランディングのCI・VI策定を、CMO的な役割の人材を派遣することで支援。
PRも兼ねた市場検証/事業実証
スタートアップの課題
自社プロダクトの日本における市場性や事業性をクイックかつコスト効率良く検証し、事業展開の可能性を探りたい。
電通ベンチャーズ/電通が提供したこと
第三者の事業パートナーと共に集客を行い、コストを抑えた形で事業性を検証。実プロダクトの投入でアーリーアダプターに対するPR効果も狙い、ROIの高い市場検証を実現。
包括的な
日本法人立ち上げ支援
スタートアップの課題
日本マーケットへの親和性やパートナー戦略の実現性を検証した上で、日本支社を立ち上げ、ローカライズされたプロダクトの販売を行いたい。
電通ベンチャーズ/電通が提供したこと
日本法人設立に向けた採用支援、パートナー企業との事業提携サポート、初期顧客の獲得に向けた共同提案、プロダクトローカライズ支援等を実施。
クライアントPOCと
White Paper作成
スタートアップの課題
ソリューションの効果を実際の顧客ユースケースを通して検証し、その実証結果を活用したセールスの加速化も狙いたい。
電通ベンチャーズ/電通が提供したこと
Dentsu International の領域専門チームと連携し、クライアントとのPOCを支援。その実証結果をWhite Paperの形で分かりやすく整理し、対外発信を実施。

投資先との創発的でサステナブルな関係を目指す

CVCによる事業支援を継続的なものにするためには、投資先との関係を長期視点でお互いにメリットのある、創発的なものにする必要があると考えています。

例えば電通ベンチャーズでは主に上記のような事業開発関連の支援/連携に注力していますが、投資先から(株)電通が一般顧客に提供しているマーケティング・コミュニケーション(マーコム)関連のソリューションを求められることもあります。ここで、投資先だからという理由で(株)電通のソリューションを安価で提供してしまうことは、お互いのインセンティブ設計に負の影響を与えてしまい、ベストを持ち寄って価値創造の総量最大化を目指すValue Creationにはならず、ゼロサムゲームで自らの取り分を主張し合うValue Claimingのネガティブスパイラルに陥ってしまう可能性を孕んでいます。

よって私たちは、投資先に対して(株)電通のマーコムソリューションが必要となる場合は、(1)電通ベンチャーズが投資先に対する深い戦略理解に基づいて最適な電通リソースの水先案内人となり、(2)(株)電通はフェアな対価で最適なソリューションを提供し、(3)さらにまた、電通ベンチャーズがそれが対価以上の大きな価値を生むように投資家ならではの立場で徹底的に(もちろん自らのリソース配分の調整の中で、無償で)サポートを行う、というアプローチを取っています。

これはより一般化すると、CVCによる事業支援を大企業からの一方的なリソースの提供で終わらせることなく、スタートアップとの緊張感のある互恵関係に基づいた、サステナブルな取り組みにしていくためにも重要だと考えています。私たちはこのような長期視点でのスタートアップとの共創こそがCVCの存在意義であり、醍醐味でもあると信じ、日々取り組みを続けています。

(株)電通内のスタートアップ専門組織であるStartup Growth Partners。電通ベンチャーズとも密に連携しながら、投資先に限らず様々なステージのスタートアップに対して専門的なマーコムソリューションを提供している。

本ポストでは「CVCに期待される投資先事業支援/連携のあり方とは?」という大仰なタイトルを掲げました。しかしここまで読み進めていただいた方であればご理解の通り、CVCの事業支援はまさに事業会社の業態が多様であるように千差万別であるべきで、一つの正解があるようなものではありません。一方で、当然共通のラーニングやインサイトも存在するため、それを出来る範囲でオープンに共有し、成功も失敗も含めて互いに学び合い、スタートアップを取り巻くエコシステム自体を進化させていくことには意味があると考えています。

電通ベンチャーズでは新しい投資領域だけでなく、新しい時代に見合う新しいビジネスのアプローチを切り拓いていくことも目標としており、自分たちの活動や提供価値に関する透明性の向上もその取り組みの一つです。引き続き様々な事業支援アプローチのアジャイルでオープンな開発を継続し、他CVCの皆様とも是非健全な切磋琢磨/共創の関係を築いていければと考えていますので、よろしくお願いいたします。

笹本康太郎 Managing Partner @ Dentsu Ventures

© DENTSU VENTURES, ALL RIGHTS RESERVED.

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