投資先「Narvar」関連記事:
LTVを向上させる「ポストパーチェス」の視点 ─商品購入後も続く顧客体験
※以下では、電通ベンチャーズの投資先に関して、電通グループのR&D統括組織である電通イノベーションイニシアティブが作成した記事を一部加工して転載しています。
マーケティングファネルの重要なゴールは「購入」。しかしEコマースにおける顧客体験は、購入後も続いています。商品購入から到着までの間にコミュニケーションすることは、売上拡大やロイヤリティを向上させる効果があることがわかっています。すでに海外では、購入後の顧客体験「ポストパーチェス」領域に注力する企業が増えています。日本ではまさに“これから”、次世代のトレンドとなるであろう「ポストパーチェス」について、株式会社電通グループ 電通イノベーションイニシアティブ(DII) チーフ・ディレクター 小川 浩史が、パートナー企業であるNarvar Japan株式会社 代表取締役社長 飯沼 勇生さんに、そのポテンシャルと具体的な最適化の方法を聞きました。
飯沼 勇生(写真右)
Narvar Japan株式会社 代表取締役社長。伊藤忠商事及びGeneral Electric Inc(GE)で、営業・新規事業・事業経営に従事した後、2015年アマゾン・ジャパンへ入社。小売部門にて音楽・映像事業部長、その後プライムビデオでの事業部長を経て、2021年1月にNarvar Japanへ入社。日本及びアジアでのビジネスの構築と拡大を推進。
小川 浩史(写真左)
株式会社電通グループ 電通イノベーションイニシアティブ チーフ・ディレクター。入社以来10年以上、放送局担当や音楽アーティストをはじめとするコンテンツホルダーの担当として、メディアビジネス・コンテンツビジネスに従事。その後電通ベンチャーズ、DIIにて国内外ベンチャー投資・電通グループとのオープンイノベーション、電通グループの事業基盤開発に取り組む。
DIIの「ポストパーチェス」も含むリテール/コマース領域におけるR&D活動の全体像については、こちらの記事をご参照ください。
>>リテール/コマース領域におけるR&D活動の考え方
購入完了後も続く、顧客体験
小川:本日は「ポストパーチェス(Post Purchase:購入完了後)」をテーマに、ECにおけるその重要性や最適化の方法について、お聞きできたらと思います。まずは、飯沼さんが日本法人の代表を務める「Narvar」のサービスについて、教えてください。
飯沼:Narvarは、ポストパーチェス分野で世界最大の顧客規模を有するグローバル企業です。ECにおいて、購入後の体験「ポストパーチェス」領域も最適化することで、買物体験は更に向上し、売上の拡大につながります。しかしながら、「注文までの戦略」は多くのECサイトで実装されていますが、「購入後の戦略」まで意識している企業はまだ日本では少なく、Narvar Japanは現在、電通グループ各社と一緒に、「ポストパーチェス」領域の重要性の啓発、改善サービスの提案を行っているところです。
小川:店舗とECでは、ポストパーチェスの顧客体験も異なります。やはり店舗の方が体験価値は高いですよね。
飯沼:ECの場合は、店舗と違い、商品の手渡しもなければ、お見送りもありません。お気に入りのブランドで商品の購入まではするのですが、その後は購入したブランドとは関係なく配送会社から商品が届くという流れになっています。このお買物体験の分断をいかにして補えるかという点に着目し、サービスを提供しているのが私たちの会社です。
ポストパーチェスには、大きなチャンスが眠っている
飯沼:「プリパーチェス(購入まで)」には、情報収集、検討、そして購入と3つの段階があります。広告や検索によって「トラフィック(サイト流入)」を生み出し、UIやUXなどの要素が「CVR(コンバージョン率)」につながり、その「プライス」によって、ECの売り上げが決まる。すでにプリパーチェスに関しては、ほとんどの企業がこの売上を構成する3つの要素を最大化させるため、さまざまな施策を実施しています。しかし、購入後の体験(ポストパーチェス)については、未着手の企業が多いのが現状です。ただ、そこには、売上拡大・顧客体験向上の大きなチャンスが眠っています。
小川:そのチャンスを拡大するためのサービスをNarvar Japanでは、提供されているんですよね。
飯沼:はい。現在、ECサイトで商品を購入すると、配送会社のサイトから、商品の配送状況を確認する流れになっていますが、ここで顧客体験を分断せずに、ブランドから顧客に対して「追跡ページ」の提供、「配送通知(メール通知)」をすることによって、購入から配送まで、ブランドが一気通貫で管理し、顧客とつながり続けることを可能にします。加えて、「返品・交換」も容易にできる体制を整えることで、ロイヤリティの向上につなげます。
どちらも自社で対応するにはハードルがありますが、NarvarのSaaSを活用することで、低コストで実現することが可能です。
小川:SaaSは、必要な機能を必要な分だけ利用できるのが特徴です。海外でポストパーチェスに注目する多くの企業が、Narvarのサービスを導入している理由にも関係していそうですね。
飯沼:費用対効果は高いと思います。海外ではすでに、1200を超えるグローバルブランドが弊社のサービスを利用し、購入後の体験価値向上に注力しています。今後は日本でも、この動きは加速していくと私たちは予測しています。
購入後も顧客とつながることで生まれる効
小川:NarvarのSaaSを利用すると、具体的にどのような効果があるのでしょうか?
飯沼:ECで買物したあとの顧客の最大の興味は、「いつ届くか」です。その前段階でコミュニケーションを断絶してしまうことは、顧客体験において損失であると言えます。実際、さきほど紹介した「追跡ページ」については、すべての注文のうち、40%から80%の顧客がアクセスしており、1回の買物で平均3.4回このページにアクセスしています。このことからも、「購入後」が重要なタッチポイントであることがわかると思います。さらに追跡ページを訪れた顧客のうち、平均18%がページ内のバナーをクリックして、ECサイトに再訪しています。
小川:「いつ届くか」と商品を待っている間にも、顧客は「次のアイテムを探す」行動をするのですね。
飯沼:はい。ですから、商品到着までの期間も顧客とつながり続けることは、非常に重要なのです。追跡ページ同様、「配送通知(メール通知)」も顧客体験価値の向上に寄与します。配達予定メールの開封率は70%、CTRは28%で、配達完了メールの開封率は52%、CTRは12%と、非常に高いものとなっています。通常のメールマーケティングでは、ここまで高い数値が出ることはまずありません。
小川:実に驚異的な数字ですね。これはそのまま、ポストパーチェスのポテンシャルの高さとも言えそうです。だからこそ、顧客はホットなマインドなのに、そこをフォローできていないというのは、実にもったいないことですよね。
飯沼:はい。ポストパーチェスを意識することは、売上拡大やロイヤリティ向上、さらにはブランディグ強化やコスト削減にもつながります。売上拡大という点では、「追跡ページ」を経由して、新作・セール商品などに顧客を誘導すると、ECストアの全体平均と比べて、30%から40%も高いCVRになることがわかっています。
小川:追跡ページ経由でECサイトを訪れているユーザーは、リピーターですから、購入ハードルも他のユーザーより低くなり、購入確率も高まるのでしょうね。
飯沼:購入した商品が届く間に、次の商品を販売できるという短期的な売上向上を実現できるのは、非常に大きな魅力だと考えています。
ポストパーチェスとロイヤリティの関係性
小川:顧客のロイヤリティ向上のために、ポストパーチェスでできることは、どのようなことがありますか?
飯沼:商品購入後の顧客に対して、「追跡ページ」を通じて、アプリやプログラムに誘導することで、LTVの最大化につなげることが可能です。アメリカの事例ではありますが、Narvarのサービス導入前の3ヵ月と比較して、200%から300%のアプリ会員・ポイント会員を新規獲得した例もあります。
小川:ECサイトで商品を購入後から、商品が届くまでというのは、顧客とのエンゲージメントを高めやすい期間であることが、よくわかりますね。
飯沼:はい。追跡ページで表示するバナーは、顧客に合わせて最適化することも可能です。これは顧客にとっても、自分に合った情報が表示されるため、顧客体験価値の向上にもつながります。
小川:ポストパーチェスには、「返品・交換」も含まれます。一見、ネガティブに思えるシーンにおいても、顧客体験は重要なのでしょうか?
飯沼:はい。返品プロセスの利便性に満足した顧客は、96%が「再購入の意向を高める」という結果が出ています。一方で、返品プロセスに不便を感じた顧客の33%が「今後そのストアで買物しないと決める」という結果が出ています。
小川:返品プロセスの重要性は、非常に高いですね。Narvarでは、そのプロセスをどうやって最適化しているのですか?
飯沼:多様な返品方法を用意し、コンビニやロッカーでの返品や配送会社による集荷など、いくつか選択肢を用意しています。また返金も、現金やクレジットカード、さらに「ストアの電子ギフト」を用意しています。特にストアの電子ギフトにおいては、返金速度を他の選択肢よりもスピーディーに実施することで、買い直しの促進につなげ、返品による売上損失を最小化する効果を生み出します。
小川:たしかに選択肢が豊富だと、顧客にとっては、喜ばしいですよね。ただ、この仕組みをイチから構築するのは大変です。それをNarvarのサービスを導入すれば、簡単に利便性の高い返品プロセスを構築できるというのは、企業にとっても、顧客にとっても、メリットがありますね。
飯沼:はい。返品理由も収集できるため、サービスや商品改善に活かすこともできますし、さまざまな面で双方にメリットがあります。
アメリカに次いで、日本でも高まるポストパーチェスの重要性
小川:ここまでの説明で、ポストパーチェスがLTVに寄与することがよくわかったのですが、企業が二の足を踏んでいる理由があるとすれば、どこにあると感じますか?
飯沼:市場の成熟度ではないでしょうか。アメリカでもポストパーチェスという言葉が出てきたのは、ここ10年くらいですし、日本でもこれから広がっていく概念だと考えています。購入につなげるプリパーチェスの施策をいくつも講じて、次に着目するのが、購入後のポストパーチェスです。購入前のマーケティングをひと通り実践してみて、さらなる成長を目指す際に、ポストパーチェスに着目される企業が多いですね。
小川:パレートの法則(2:8の法則)でも、2割の優良顧客が売上の8割をあげていると言いますよね。新規顧客の獲得はたしかに大切ですが、既存顧客のロイヤリティを高めることは、それ以上に実は重要ですし、取り組みは進めるべきですよね。
飯沼:リピートする顧客は、購入率も高いですし、新規顧客の獲得よりも顧客をロイヤル化することの方が費用対効果は高いです。ぜひ日本でも多くの企業の方にポストパーチェスの重要性を知ってほしいと考えています。
日本独自のポストパーチェスの最適化を実現したい
小川:電通グループは、クライアントのマーケティング全体を任せていただくケースが多くあります。そのなかには、ECサイトの最適化も含まれますし、ポストパーチェスはその点で、非常に重要な領域だと考えています。効果を最大化するためには、Narvarさんと電通グループによる相乗効果を生み出すことが不可欠だと思うのですが、その点はどのようにお考えですか?
飯沼:マーケティングファネルは、「購入」がゴールですが、ポストパーチェスは、「そのあと」のマーケティング施策です。購入後も続く買物体験を通じて得たデータを、いかに活用するかという視点で、相乗効果を生み出していけると思っています。
小川:アメリカとは異なる、日本ならではの、ポストパーチェス領域のサービスを展開できる可能性も模索できたらいいですね。
飯沼:配送の品質や正確性は、アメリカより日本の方が高いですし、配送時間も短いといった違いがあります。その特性を踏まえたうえで、よりよいポストパーチェス領域の最適化のカタチがあるのではないでしょうか。今後も電通グループとの相乗効果によって、顧客にとっても企業にとってもメリットのある購買体験の構築サポートをしていけたらと思っています。
小川:ありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします。本日は、ありがとうございました。