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コミュニティを中心とした経済圏「コミュニティコマース」とは
※以下では、電通ベンチャーズの投資先に関して、電通グループのR&D統括組織である電通イノベーションイニシアティブが作成した記事を一部加工して転載しています。
現在SNS上には、共通の価値観やニーズでつながる「コミュニティ」が至るところに存在しています。そこにある共通の「興味・関心」は、消費につなげやすく、コミュニティ中心の経済圏「コミュニティコマース」への注目度も近年、高まりを見せています。
株式会社電通グループ 電通イノベーションイニシアティブ チーフ・ディレクター 小川 浩史が、パートナー企業である株式会社ライスカレー 代表取締役 大久保 遼さんに「コミュニティコマース」について、聞きました。
大久保 遼(写真右)
株式会社ライスカレー 代表取締役。2012年4月ゴールドマン・サックス証券株式会社投資銀行部門 入社。主に広告、通信・メディア、テクノロジー関連のM&A、ファイナンシングのアドバイザリー業務に従事。2014年9月オンライン広告テクノロジー企業であるMomentum株式会社を創業(Syn.ホールディングス株式会社に売却)。2016年4月に株式会社ライスカレーを設立、代表取締役社長 に就任。
小川 浩史(写真左)
株式会社電通グループ 電通イノベーションイニシアティブ チーフ・ディレクター。入社以来10年以上、放送局担当や音楽アーティストをはじめとするコンテンツホルダーの担当として、メディアビジネス・コンテンツビジネスに従事。その後電通ベンチャーズ、DIIにて国内外ベンチャー投資・電通グループとのオープンイノベーション、電通グループの事業基盤開発に取り組む。
後天的コミュニティのコマース化を支援する「ライスカレー」
小川:ライスカレーさんは電通ベンチャーズから投資もさせていただいておりますが、コミュニティコマースの創出および運用に必要なすべての要素を持たれている会社と理解しています。まずは簡単に事業内容を教えてください。
大久保:ライスカレーは、自社コミュニティの運用からスタートし、現在はさまざまなコミュニティを起点にしたコマース支援、ならびに経済圏の創出をサポートしている企業です。
自社コミュニティの運営については、イチから立ち上げて、SNSを起点に集客し、商品を作って販売することで、マネタイズしています。
そのノウハウを企業向けにも提供しており、企業のコミュニティづくり、ならびに、コミュニティコマース創出のお手伝いをさせていただいています。
小川:コミュニティには、学校のようなリアルなものと、デジタル上のものがあります。ライスカレーさんが手がけるのは、後者の部分ですよね。
大久保:リアルとデジタル。私たちはそれを「先天的コミュニティ」と「後天的コミュニティ」と呼んでいます。先天的コミュニティは、学校や町内会など、自分で選ぶというよりも、気づいたら属している場所です。
一方で後天的コミュニティは、自分の意思でそこに所属している場所。わかりやすいのは、たとえば好きなYouTuberがいて、そのファンコミュニティのメンバーになっている、などでしょうか。
小川:ある特定の何かが好き、もしくは興味がある、熱量の高いユーザーが集まっているという場所、とも言えそうです。
大久保:そうですね。私たちはこの、「後天的コミュニティ」の経済圏の構築を事業として展開しています。コミュニティには、共通の課題や解決したいニーズのようなものがあるものです。そのインサイトを発掘し、商品やサービスに落とし込むことでマネタイズにつなげることを、ライスカレーではイチからサポートしています。
小川:ですが、コミュニティを起点にしたマネタイズというのは、コミュニティごとに熱量の源泉や課題が異なるため、再現性のある形でのサービス化ということは、実は非常に難しいですよね。
大久保:はい。いくつもコミュニティを運営してきて、成功のポイントみたいなものは見えてきているのですが、フレームワークのようなものは存在しません。今後は、ノウハウを定式化し、データを横断的に管理していくことで、コミュニティ運用の精度を向上させていきたいと考えています。
SNSマーケは集客手段のひとつ。目的はあくまで経済圏の創出
小川:自社でコミュニティを立ち上げ、運営し、商品を販売する「コミュニティコマース」という経済圏。SNSマーケティングのサポートをするという会社はありますが、経済圏を創出しますという企業はあまり聞きません。そこに御社の独自性を感じます。
大久保:ありがとうございます。ライスカレーでは、コミュニティの価値を最大化することに取り組んでいます。そのなかにはSNSマーケティングも含まれますが、あくまでそれはコミュニティの形成における集客の手段のひとつでしかありません。ですから、一見、同じことをやっているようでも、実は目的が違う。目指すのは、目先の認知拡大ではなく、「コミュニティを起点とした経済圏の創出」です。わかりづらい部分ではあるのですが、重要な部分ですので、企業の方にも丁寧にご説明させていただき、ご理解いただけるように努めています。
ゴールに応じてコミュニティを最適化することが重要
小川:ここであらためて、大久保さんの考える「コミュニティの定義」について、教えてください。
大久保:私は大きく、コミュニティには3つの要素があると考えています。
ひとつは、コミュニティオーナー=運営主体が存在すること。これは、一般的に使われるコミュニティという言葉にはない概念ですが、ライスカレーがつくり育てるコミュニティは何らかの形で運営主体が存在するものになります。次に、共通の価値観や課題意識を持っているユーザーの集まりであり、かつ、全員が、自分の意思でそこに参加していること。そして最後が、「輪郭」があることです。K-POP好きといっても、そこにはさまざまな濃度があります。ライトユーザーもいれば、コアユーザーもいる。さまざま熱量のユーザーがいるのがコミュニティです。
小川:輪郭というのは、コミュニティの対象者の範囲だと思うのですが、コミュニティ運営においては、事前に決めておくべきなのでしょうか?
大久保:SNSをフォローしている、メルマガ会員など、共通の価値観や課題意識を持っていても、熱量はさまざまです。そこをしっかりと見極めて、運営していかないと、コミュニティコマースの実現は軸が決まりづらく、難しくなる傾向にあります。
小川:コミュニティをつくるのは、手段であって、目的ではない。それは、100万円のものを売りたいというゴールかもしれないし、単純に認知拡大かもしれない。ゴールに応じたコミュニティの最適化が必要ということですよね。
大久保:コミュニティコマースと聞くと、モノを売るというゴールを想像しがちだと思うのですが、ECでモノを売ることだけがコミュニティの活用法ではありません。コミュニティのユーザーインサイトを分析し、しっかりマーケティングしていく。ユーザーが求めるものは何かを知る。その先に、経済圏の創出があると考えています。
小川:コミュニティ経済圏といっても、マネタイズする方法はいくつもあるはずですし、「モノを売る」一択にしてしまっては、機会損失になる可能性もありますよね。
大久保:はい。コミュニティのユーザーのなかには、特定の商品を定期購入している方もいれば、Amazonで一度だけ購入した方、さらに購入したことはないけど、興味はあるという方もいるわけです。それぞれの層をどう捉えるか。インフルエンサーとタイアップするにしても、インフルエンサーのファンをいかに、コミュニティコマースにつなげるかなど、さまざまなことをロジカルに展開しなければ、うまくはいきません。弊社の代表的なコミュニティブランドのひとつである「MiiS」では、商品開発の段階からSNSメディアや定期会員を巻き込んだ共創を行うことで、単にものをつくって売るだけのECではなく、コミュニティを起点としたECを展開しています。
コミュニティは、マーケティングの装置
小川:インフルエンサーとのタイアップを実施して、コミュニティのユーザーは増えたけれど、濃度は下がってしまったでは、コミュニティの価値も下がってしまいます。目先の結果も大事ですが、コミュニティコマースにおいては、中長期的な視点が大事なのですね。
大久保:弊社の運営しているライフスタイル共感コミュニティ「RiLi」のユーザーも、さまざまな濃度があります。商品の企画まで参画するユーザーもいれば、商品を購入してSNSで紹介してくれるユーザーもいる。一方で、「なんとなくSNSアカウントをフォローしている」というユーザーだっているわけです。このようにどんなユーザーがコミュニティの中にいるかを把握することも大切です。知らずして、KPIや目的の設定もできませんし、コミュニティコマースの構築にもつながりにくいと感じています。
小川:コミュニティコマースを構築する難易度は、想像以上に高い。ただ、それ以上のメリットがそこにあるわけですよね?
大久保:はい。ユーザーの継続性、そして継続的な広がりは、ROI(投資利益率)の向上を生み出します。たとえば新商品ができたとき、コミュニティに対してアプローチすれば、それだけで大きな効果を得られる。売上に対する広告費の減少につながりますよね。例えば「RiLi」に関しては、広告費は同業他社に比べてかなり低い水準に抑えられています。
小川:ユーザーから声を吸い上げることもできるし、情報拡散も期待できる。いわばコミュニティは、マーケティングの装置になりえるのですね。
大久保:これまでのデジタルマーケティングは、企画と販売が連動してないですよね。企画が先にあって、それをどう売るか。コミュニティはそこが統合されています。企画段階でユーザーのインサイトが反映されている。だから無駄なマーケティングが少なくなるわけです。
「VR消費」で変わる購買体験の未来
小川:コマースの未来、購買体験の未来について、どのようにお考えですか?
大久保:大きく変わっていく可能性があると思っています。SNSで見て衝動的に商品を購入する「SNS消費」。これはスマホあってこその行動ですよね。デバイスの影響力の大きさがここには感じられます。
つまり、デバイス側にイノベーションが起きると、購買も変化していく。では、次の潮流は何かと言えば「VR消費」ではないでしょうか。ただ、VR空間でこれまでと同じような商品が、同じように売れるとは思えません。仮想空間だからこその商品や、特有の売れ方が起きると思います。しかしまだ、私たちの世界はVR化していないので、その答えは未来にあると考えています。
小川:「VR消費」が普及すると、どのような変化が起きるのでしょうか?
大久保:VR上では、アバターの洋服など、データの売買が中心になると考えています。データに形はありませんから、保管の必要がない。生産コストも管理コストも激減します。これは売り手にとって、大きなイノベーションですよね。
小川:「NFT」は、デジタルデータに唯一性を付加することで価値を創出しています。消費のVR化は、すでに起こり始めていますよね。
大久保:そうですね。今後、VR消費の価値が上がっていくためには、生活の中にバーチャルがもっと入ってくる必要があると思っています。リアルとメタバース空間を行き来するような未来が来れば、自ずとVR消費は拡大していくのではないでしょうか。
データによる、コミュニティのDX化を推進したい
小川:電通グループの取り組みの未来についてお考えをお聞かせください。
大久保:現在、実はDX化されていないし、オンライン上にはないけれど、実はコミュニティ化されているものがあると思っています。そのDX支援、さらにはデータの取得・分析からインサイトを把握して、マネタイズにつなげられたらという思いがあります。
電通グループさんは、さまざまな企業と多様な接点を持っています。その課題解決の選択肢として「コミュニティコマース」が生まれたことで、相乗効果が生まれるのではないかと期待しています。コミュニティ自体は、昔からあるわけですが、電通さんと一緒に組むことで、データドリブンによるコミュニティのDX化の促進みたいなことができると面白いのではないかと考えています。
小川:そうですね。これまでコミュニティ運用は、暗黙知的にマネジメントされていた領域でもあると思っています。そのナレッジを形式知にして、精度を高めていくことで、企業のコミュニティのDX化を支援できたらいいですね。
大久保:そうなれば、適切なKPIやゴール設定もできるでしょうし、PDCAもしっかりと回されるはずです。ライスカレーさんと一緒に、コミュニティを軸とした、新しい価値を提供していければと思っています。これからも、よろしくお願いします。本日はありがとうございました。